PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の
患者さんとご家族向けの疾患情報サイトです。

PNH治療プラス
相談シートに記録する
PNH治療プラス

PNHの診断

Diagnosis

診断に時間がかかるPNH

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;以下PNH)は、診断されるまでに時間がかかる疾患といわれています1)。疾患そのものが珍しいこともありますが、PNHにみられる貧血に伴う症状(疲れやすい、全身倦怠感、息切れ、動悸など)などは、他の疾患でも現れるためです。ヘモグロビン尿(コーラのような色をした尿)は特徴的な症状ですが、必ずしも現れるわけではなく、日本で診断時にヘモグロビン尿がみられた患者さんは全体の約30%と報告されています2)

PNHの検査・診断

PNHの診断

PNHの診断には、患者さんに現れている症状に加え、溶血(破壊された赤血球からヘモグロビンなどが血液中に漏れ出る現象)が起きているかなどを調べる血液検査が欠かせません。具体的には、血中ヘモグロビン濃度・血清LDH(乳酸脱水素酵素)値・間接ビリルビン値・血清ハプトグロビン値・網状赤血球数のほか、白血球や血小板の数などを測定します。このほかPNHに移行・合併することがある骨髄不全型の疾患(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)を発症していないか調べるのも重要です。

PNHの確定診断には血液検査に加え、フローサイトメトリーと呼ばれる検査が必要です。この検査で血液中のPNH型赤血球(補体制御タンパクを欠いた赤血球)の割合を調べます。骨髄不全型のPNHの中には溶血が起こっているかはっきりしないタイプが存在しているため、同タイプの診断や経過観察中にはより精度の高い高感度フローサイトメトリー(保険適応外)が用いられることがあります。

3. 診断基準(令和4年度改訂)

A.検査所⾒

以下の 1)かつ 2)を満たす。

1) グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型膜蛋⽩の⽋損⾚⾎球(PNH タイプ⾚⾎球)の検出と定量において、PNH タイプ⾚⾎球(II 型+III 型)が 1%以上。
2) ⾎清 LDH 値が正常上限の 1.5 倍以上。
<診断のカテゴリー> Definite: A を満たすもの。

B.補助的検査所⾒

以下の検査所⾒がしばしばみられる。

1) 貧⾎及び⽩⾎球、⾎⼩板の減少
2) 溶⾎所⾒としては、⾎清 LDH 値上昇、網⾚⾎球増加、間接ビリルビン値上昇、⾎清ハプトグロビン 値低下が参考になる。
3) 尿上清のヘモグロビン陽性、尿沈渣のヘモジデリン陽性
4) 好中球アルカリホスファターゼスコア低下、⾚⾎球アセチルコリンエステラーゼ低下
5) ⾻髄⾚芽球増加(⾻髄は過形成が多いが低形成もある。)
6) Ham(酸性化⾎清溶⾎)試験陽性または砂糖⽔試験陽性
7) 直接クームス試験が陰性
※直接クームス試験は、エクリズマブまたはラブリズマブ投与中の患者や⾃⼰免疫性溶⾎性貧⾎を合併した PNH 患者では陽性となることがある。

C.参考所⾒

1) ⾻髄穿刺、⾻髄⽣検、染⾊体検査等によって下記病型分類を⾏うが、必ずしもいずれかに分類する必要はない。
 (1) 古典的 PNH
 (2) ⾻髄不全型 PNH
 (3) 混合型 PNH

※ 混合型 PNH とは、古典的 PNH と⾻髄不全型 PNH の両者の特徴を兼ね備えたり、いずれの特徴も不⼗分で、いずれかの分類に苦慮したりする場合に便宜的に⽤いる。

2) PNH Definite は、臨床的 PNH と同義語であり、溶⾎所⾒が明らかでない微少 PNH タイプ⾎球陽性の⾻髄不全症(subclinical PNH)とは区別される。

発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版.p4 3)より引用

PNHの重症度分類

PNHは溶血や症状の程度、合併症などによって重症度が異なります。重症度は医師にとってPNHがどこまで進行しているか把握し、治療内容を決める上で重要になります。 ちなみに、PNHは指定難病(国が定めた基準に該当する難病)に該当していて「中等症」以上であれば医療費の助成が受けられます。

4. 溶⾎所⾒に基づいた重症度分類(令和4年度改訂)

軽症 下記以外

中等症 以下のいずれかを認める

溶⾎

  • 中等度溶⾎※1、または時に溶⾎発作※2を認める

重症 以下のいずれかを認める

溶⾎

  • ⾼度溶⾎※3、または恒常的に⾁眼的ヘモグロビン尿を認めたり頻回に溶⾎発作※2を繰り返す
  • 定期的な輸⾎を必要とする※4

溶⾎に伴う以下の臓器障害・症状

  • ⾎栓症またはその既往を有する(妊娠を含む※5
  • 透析が必要な腎障害
  • 平滑筋調節障害:⽇常⽣活が困難で、⼊院を必要とする胸腹部痛や嚥下障害 (嚥下痛、嚥下困難)
  • 肺⾼⾎圧症※6

※1 中等度溶⾎の⽬安は、⾎清LDH値で正常上限の3~5倍程度。
※2 溶⾎発作とは、⾁眼的ヘモグロビン尿を認める状態を指す。
時にとは年に1~2回程度、頻回とはそれ以上を指す。
※3 ⾼度溶⾎の⽬安は、⾎清LDH値で正常上限の8~10倍程度。
※4 定期的な⾚⾎球輸⾎とは毎⽉2単位以上の輸⾎が必要なときを指す。
※5 妊娠は溶⾎発作、⾎栓症のリスクを⾼めるため、重症として扱う。
※6 右⼼カテーテル検査にて、安静仰臥位での平均肺動脈圧が25mmHg以上。

発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版.p5 3)より引用

1)Shammo J M,et al.Blood.2015;126(23):3264
2)Nishimura J, et al. Medicine. 2004;83:193-207
3)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班.発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド(令和4年度改訂版 責任 保仙 直毅).(PDF)(最終閲覧日:2023年9月8日)
http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Paroxysmal_nocturnal_hemoglobinuria2022.pdf

監修医師:西村純一 先生

監修医師

西村純一 先生

大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授

アイコン:リスト

相談シートに
症状を記録する