PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の
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溶血がもたらす様々なPNHの症状

Symptom

PNHとは

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;以下PNH)は、赤血球などの基となる造血幹細胞に後天的な遺伝子変異が起こることで、壊れやすい赤血球が作られる血液疾患です。

PNHは稀な病気で、1998年度の厚生労働省の調査によると、日本国内の推定有病者数は430人(100万人あたり3.6人)と報告されています1)。また、2021年度末現在で特定医療費(指定難病)受給者証(※)を発行されたPNHの患者さんは959人でした2)

※国が定めた基準に該当する難病(指定難病)を発症した患者さんのうち、病状の程度などを確認する都道府県や指定都市の審査を経て認定された方に発行されます。PNHは指定難病の一つです。

PNHの原因

人間の体内を流れる血液は、血球と呼ばれる細胞成分と血漿(けっしょう)と呼ばれる液体から成り立っています。血球は3種類あり、肺から送り出された酸素を全身に運び、二酸化炭素を肺に持ち帰るなどする赤血球、体内に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃などする白血球、傷口からの出血を抑える血小板に分けられます。これら3種類の血球の基となるのが、骨髄に存在する造血幹細胞です。造血幹細胞は血球に成長する(分化)だけでなく、細胞分裂によって自らと同じ造血幹細胞を増やす力(自己複製)も持っています。

PNHとは

赤血球を包む細胞膜には、重要な働きを担うタンパク質が存在していて、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol;以下GPI)アンカーと呼ばれる糖脂質によってつなぎ止められているタンパク質群があります。つなぎ止められたタンパク質の一つに、補体制御タンパク(CD55やCD59)が存在します。補体制御タンパクは、補体(体内にウイルスや細菌などの異物が侵入した時に活性化し、異物を攻撃するタンパク質)から細胞を保護する重要な役割を担っています。

GPIアンカー生成に関わる遺伝子(PIGAなど)に後天的な変異を持った造血幹細胞からは、補体制御タンパクを欠いた赤血球(PNH型赤血球)が作られます。無防備となったPNH型赤血球は補体に破壊されてしまうため、赤血球に含まれるヘモグロビンが血液中に漏れ出てしまう「溶血」が起こります。この溶血によって、様々な症状や合併症が生じます。

PNHとは

PNHには、骨髄不全型PNH(造血幹細胞に問題が生じ血球を作り出す能力が減って血液中の赤血球が減少する状態を伴う)、骨髄不全を伴わず溶血が特徴的な古典的PNH、両者の特徴を兼ね備えたり分類が難しい混合型PNHに分けられます。

骨髄不全型の別疾患である再生不良性貧血や骨髄異形成症候群は、PNHと合併・相互移行することがあります。

血管内溶血と血管外溶血

赤血球が未熟な段階で破壊され、それにより赤血球寿命が短くなる溶血は、血管内溶血と血管外溶血の2種類に分けられます。前者はその名の通り血管の中で溶血するもの、後者は肝臓や膵臓など血管の外で溶血するものをそれぞれ指します。

PNHとは

症状

PNHは溶血や骨髄不全、合併症によって様々な症状が現れます。症状の程度には個人差があり、緩やかに病気が進行する場合は貧血症状を自覚しにくいケースもみられます。
また、変異する遺伝子の種類やPNHのタイプ(骨髄不全型PNH、古典的PNH、混合型PNH)によってみられる症状が異なります。

PNHで現れる様々な症状

PNHとは
  1. 貧血に伴う症状:易疲労感(疲れやすい)、全身倦怠感、集中力の欠如、めまい、脱力感、顔色不良、身体を動かしているときの息切れ、動悸
  2. 黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる)
  3. ヘモグロビン尿(コーラのような色をした尿)
  4. 血小板減少による出血傾向(出血しやすくなる)
  5. 白血球減少に伴う感染による発熱
  6. 勃起不全など男性機能の低下
  7. 嚥下困難・嚥下痛(ものを飲み込みにくい、飲み込むときに痛む)
  8. 腹痛
  9. 背中の痛み

疲れやすさはPNHの患者さんによくみられる症状で、PNHの患者さんのうち96%に疲労が認められたという報告もあります3)

ヘモグロビン尿はPNHの特徴的な症状で病名の由来にもなっていますが、診断時にヘモグロビン尿がみられた患者さんは日本で全体の約30%にとどまり、アメリカの50%と比較すると少ない、との報告もあります。4)。尿の色は溶血の程度によって変化し、コーラのような色が代表的です。

合併症

PNHは慢性的な溶血によって多くの合併症が現れる疾患です。なかでも慢性腎臓病、血栓症、肺高血圧症は治療しないで放置してしまうと命にかかわるおそれがあり、注意する必要があります。

このほか再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、胆石なども合併症として挙げられます。

慢性腎臓病

PNHとは

慢性的に腎臓に障害が起きたり、腎機能が低下する病気です。進行すると脚のむくみや貧血、倦怠感、夜間頻尿など様々な症状が現れます。末期の腎不全になってしまうと、心筋梗塞や脳卒中、心不全などで命にかかわるおそれがあります。

PNHによって腎臓が損傷する原因は、長期にわたって溶血が起きることで腎臓の非常に細い血管に血栓ができたり、鉄分が蓄積されることなどが挙げられます。

血栓症

PNHとは

血管の中にできた血栓(血のかたまり)が血管を詰まらせてしまい、血の流れを止めてしまう病気です。部位によって現れる症状は異なり、肝臓であれば腹痛、腸であれば腹痛や発熱など、脳であれば激しい頭痛、おう吐などです。

PNHに特徴的な合併症ですが、欧米の報告と比較して日本では頻度、死亡例ともに少ない、との報告があります4)。PNHが血栓症を合併するメカニズムは、様々な要因が指摘されており、それらが複合的に発症に関与していると考えられます。

肺高血圧症

PNHとは

心臓から肺に血液を送る血管「肺動脈」の血圧が異常に高くなる状態です。身体を動かしている時に息切れ、易疲労感や胸痛、失神、動悸やせきなどがみられます。

遊離ヘモグロビンによる一酸化窒素の濃度低下が原因と考えられています。

1)大野良之:「特定疾患治療研究事業未対象疾患の疫学像を把握するための調査研究班」平成11年度研究業績集-最終報告書- 平成12年3月発行(2000年).
2)難病医療情報センター|国の難病対策|特定医療費(指定難病)受給者証所持者数|年齢階級・対象疾患別(PDF)(最終閲覧日:2023年9月8日)
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/2023/02/koufu20221.pdf
3)Meyers G, et al. Blood. 2007;110: Abstract 3683.
4)Nishimura J, et al. Medicine. 2004;83:193-207.

監修医師:西村純一 先生

監修医師

西村純一 先生

大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授

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