PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の
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PNHの治療

Treatment

PNHの予後

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発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;以下PNH)はゆっくりと進行する、経過の長い病気です。日本における診断後の平均生存期間は32.1 年、50%生存期間(治療を受けた集団の中で生存している人の割合が丁度50%になる期間)になると25.0 年と報告されています1)

長期予後(長期の病気の見通し)は、治療法の進歩によって一部の症例を除いて一般的に良好と言われています。予後不良(病気の見通しが悪くなる)の要因として、診断時の年齢が50歳以上、診断時に重症、白血球(好中球)減少症、重症感染症の合併、骨髄異形成症候群(MDS)や腎不全の発症などが考えられます1)。日本では頻度が低いものの血栓症などを併発することがあり、まれに白血病を発症することも知られています。また、PNHは自然寛解が起こり得る病気でもあり、日本人での頻度は5%、との報告があります1)

PNHの治療

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治療の中心は対症療法で、溶血や骨髄不全(造血幹細胞に問題が生じ血球を作り出す能力が減って血液中の血球が減少する状態)、血栓症など患者さんの病状にあわせて医師が治療法を選択します。

現時点でPNHに対する唯一の根治療法は、遺伝子変異が起きている造血幹細胞を正常な造血幹細胞に置き換える造血幹細胞移植(骨髄移植)です。ただし、合併症などを考慮して対象となるのは重症(重度の骨髄不全型PNHや血栓症を繰り返すなど)の若い患者さんに限られます。

溶血に対する治療法

溶血に対する治療は、慢性的な溶血か急性の溶血(溶血発作)かで治療方針が異なります。

補体の活性化を抑える薬(終末補体阻害薬、近位補体阻害薬)

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PNHの患者さんでは、体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を攻撃するために活性化した補体が、異常な赤血球を攻撃して破壊することで溶血が起こります。そのため補体の活性化を抑える薬(終末補体阻害薬、近位補体阻害薬)を投与して、溶血が起こらないようにします。

補体は9種類あり、それぞれが連鎖的に活性化していきます。終末補体阻害薬は補体が活性化する経路のうち下流にある補体(C5)に、近位補体阻害薬はC5よりも上流にある補体(主にC3)にそれぞれ働きかけて活性化を阻害します。

投与方法はいずれも注射で、薬の種類によって医療機関での注射のみの場合と、患者さん自身による注射が選択できる場合があります。投与間隔や時間も、薬剤によって変わります。

副腎皮質ステロイド薬

腎臓の上にある副腎で作られるホルモンの一種で、体内の炎症を抑える働きがあります。溶血や溶血発作に対して一定の効果が期待できるとされています。

輸血

溶血発作や骨髄不全型PNHであるために貧血が強い場合、輸血が行われます。

鉄剤や葉酸などの投与

溶血によって鉄分を喪失したり、葉酸が減少することがあります。その場合、鉄剤を投与したり葉酸を補給したりすることが必要ですが、急激な鉄剤の補充は溶血発作を誘発しかねないので、慎重な投与が求められます。

輸液

溶血発作は急性腎機能障害を招く恐れがあるため、利尿作用がある輸液(浸透圧利尿薬)を投与することがあります。

ハプトグロビン製剤

ハプトグロビンは主に肝臓で作られる蛋白で、溶血によって血液中に漏れ出たヘモグロビン(遊離ヘモグロビン)を処理する働きがあります。溶血発作に伴う腎機能障害の予防や治療のほか、血栓症の合併を予防する目的で投与されることがあります2)

ハプトグロビン製剤の効能又は効果は熱傷・火傷、輸血、体外循環下開心術などの溶血反応に伴うヘモグロビン血症、ヘモグロビン尿症の治療です。

骨髄不全に対する治療法

骨髄不全に対する治療は、再生不良性貧血の治療に準じます。主に症状の改善を目指す治療(輸血や鉄キレート療法など)と造血を促す治療(免疫抑制剤や蛋白同化ホルモン療法、TPO受容体作動薬など)に分けられます。

血栓症に対する治療法

血栓症の治療・予防には抗凝固剤が用いられます。急性の血栓症で治療が必要な場合には抗凝固剤のほか、血栓溶解剤が使用されることもあります。また、補体の活性化を抑える薬も血栓症に効果があるとされています。

1)Nishimura J, Kanakura Y, et al. Medicine. 2004; 83: 193–207.

2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班.発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド(令和4年度改訂版 責任 保仙 直毅).p27(PDF)(最終閲覧日:2023年10月13日)http://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Paroxysmal_nocturnal_hemoglobinuria.pdf

監修医師:西村純一 先生

監修医師

西村純一 先生

大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授

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